窒素の社会被害額の論文

 

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2016年にScience advancesに出版した窒素の社会コスト(SCN)に関する論文です。かなり大きなタイトルの論文ですが,ミネソタ州を対象にしたcase studyです。ただ,コンセプトが,炭素だけじゃなくて窒素についてももっと社会被害額の試算を進めていこう,という感じになっているのでこのタイトルにしたのかと思います。

 

概要としては,ミネソタ州における肥料投入に焦点をおき,そこから環境中に流出する窒素の社会被害額を“詳細に”導出する手法を編み出した,という感じです。

これまでにも窒素による社会被害額をグローバルスケールで試算している論文はいくつか出ています。既存文献との違いとして上にも挙げた“詳細に”がキーポイントかと思いますので,以下で私が感じたこの論文の新規性を2つ挙げておきます。

 

1.地域に着目することで,窒素被害が地図的に見て町のどこで大きいのかを導出することで,今後の窒素管理の方針もだしやすくなるね,というのが一番の新規性かと。

2.窒素被害額の試算方法に関しても,これまでの文献のように,環境中に放出されるときの窒素形態だけから被害額を想定するのではなく,窒素が環境中に放出されてからの動態や形態の変化も考慮してより詳細に試算してみた,というのも新規性の1つだと思います

 

後者の新規性である被害額の試算精度改善について

個人的な意見ですが,こういう研究の最終目標は,窒素管理に役立てることだと思うので,被害額試算の精度をどこまで上げていくべきか,ちょっとよく考えた方がよさそうですね。

著者も言っていますが,炭素と比べて窒素ではなぜこの手の研究が進まないかというと,環境中における動態が想定しづらいから,ということが挙げられるようです。

例えば,炭素であれば,被害を引き起こすのは大気中に放出されて温暖化を引き起こす,というのが一般的です。一方窒素は,大気中だけでなく,土壌や水圏も考慮しなければならない,また,形態も変化していくため,その被害を調べるのが非常に難しいようですね。

こういった窒素の複雑性を考慮すると,試算の詳細性を求めていくにしても限界があるように感じます。

もちろんこう言ったアプローチも必要だと思いますが,

その一方で,現状の成果を窒素管理に繋げるアプローチも進めていく必要があると感じました。